昨晩からの雨が降り続く一日。
来月実施するPTAの奉仕作業の用具点検のため、朝から娘の通う小学校へ向かう。降りしきる雨の中、作業の能率がなかなか上がらない。このままだと午前中に終わらないかもしれない。昼から海瀬さんのピアノリサイタルがあるというのに・・・・・。
だらだら作業を進める役員のお母様たちにハッパをかけ、なんとか11時前に終了させる。
帰宅後、雨の中家族を乗せ急ぎ三島の演奏会場へ車を走らせる。会場は三島の繁華街にあるVia701というギャラリー&ホールで客席数は80名ほど。開演の10分前の到着だったので席は最後列。
プログラムは、第一部が舟歌、英雄ポロネーズ、ノクターン第5番、ピアノソナタ第2番「葬送」というショパンプロ。第二部は、夜のガスパールとラ・ヴァルス。いずれも私の好きな曲ばかりだ。
特に「夜のガスパール」は、ベルトランの詩の朗読を織り交ぜながら演奏するという意欲的なもの。朗読は山口かつ代さん。同様の試みでは、ラフマニノフの弟子だったギリシャの名女流ピアニスト、ジーナ・バッカウアーの録音があったが、実演では珍しい。
曲の最初に京子さん自らのトークが入る。海瀬さんのピアノは素直なストレートの直球勝負。抜群のテクニックを武器に「英雄ポロネーズ」など爽快そのもの。しかし剛速球で飛ばすだけではなく、最初の「舟歌」のように歌うべきところはたっぷりと充分に歌わせていく。前半では、ゆったり深い呼吸の中にさらりとした叙情が漂う「葬送ソナタ」が印象に残った。
最初の二曲では、狭い会場と古いピアノのため音が多少暴れ気味なのが気になったが、弾いていくうちに次第に音が練れてきたようだ。
休憩時間はカフェ・タイム。本格的なコーヒーと紅茶のサービスがあった。このようなちょっとした気遣いに会場が和やかな雰囲気になる。自分も午前中の作業の疲れが自然と癒される。
後半は、目の覚めるような薄いブルーのドレスにお色直しをして京子さんの登場。そしてインタヴューとトークショ。コンサートの雰囲気を自らが楽しんでいる気持ちが会場内に自然に伝わってきて微笑ましい気分となる。そしていよいよラヴェルの演奏が始まる。
「夜のガスパール」ではベルトランの詩の朗読に続き、性格の異なる3曲をビジュアルにそして丁寧に描き出していく。この曲の持つ深い闇、退廃的な気分や艶を描き出すには、これからの人生経験が物を言うことになるが、曲への深い共感が聴き手に素直に伝わる「絞首台」、怪奇性を見事に描き出していた「スカルボ」は秀逸だった。
そして最後は「ラ・ヴァルス」。オケの曲をピアノで演奏すると、どうしてもモノクロームになりがちだが、京子さんのピアノは、オケの演奏に匹敵するほどのダイナミックレンジとブリリアントな色彩感に満ちた圧倒的なものだった。時としてフランス風の洒落たフレージングを聴かせるのも心憎い。実に見事なテクニック、特に高音部分の音の冴えが輝かしい。
アンコールはショパンの「ノクターン第2番」、ラフマニノフの「楽興の時第4番」、ドビュッシーの「月の光」の3曲。中でも自信と余裕に満ちたラフマニノフは、わずか2週間前の沼響定演の時をさらに上回る大きなスケールの名演で驚いた。
非常に聴き応えのあるリサイタルだった。聴き手を楽しませながら、自分の主張をいかに聴衆に判りやすく伝えるかという、工夫と表現意欲が自然に伝わって来るのが素晴らしいと思う。これからの活躍がますます楽しみになってきた。
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