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2006年9月に作成された記事

2006年9月29日 (金)

マンロウのグリーンスリーヴス

今日はデヴィッド・マンロウの笛を聴く。

P9290574まず聴いたのは17世紀、20世紀のリコーダーの曲を集めたアルバム。
1976年録音の英EMIのオリジナルLP。

両面ともにグリーンスリーヴスから始まる。A面の最初はマルコムの弾くハープシコード伴奏によるグリーンスリーヴスの原曲をマンロウが吹いている。ダウランドやパーセルたちの17世紀の曲が続く。
B面はヴォーン・ウイリアムスの「グリーンスリーヴス幻想曲」のピアノ伴奏版。こちらピアノもマルコム。そしてマンロウとしては珍しいウォーロックやラップラなど、20世紀イギリスの作曲家たちの作品の数々を収めた異色のアルバム。

中ではヴォーン・ウィリアムス晩年の傑作、4本のリコーダーのための組曲が美しい。
古典的な格調の高さの中に懐かしさと暖かさが溢れる名品だ。マンロウが聴かせる哀愁を帯びたリコーダーの響きも素晴らしい。
それにしてもB面最後の曲が、C..Richardsonの「Beachcomber」という底抜けに明るいライト・ミュージックなのが象徴的だ。

この録音の2ヵ月後にマンロウは自ら命を絶っている。結局このアルバムがマンロウ最後の録音となってしまった。

P9290576P9290578_1続いてマンロウで「ルネッサンス舞曲のたのしみ」を聴く。こちらもEMIのLPで、スザートとモーリーの15世紀の楽しい舞曲集を集めたアルバム。
スザートはロンドン古楽コンソート、モーリーはモーリーコンソートの演奏。
ロンドン古楽コンソートでは、フィリップジョーンズ・ブラスアンサンブルでトランペットを吹いていたマイケル・レアードがツィンクを吹き、ホグウッドがチェンバロを弾いている。

スザートの舞曲集は、フィリップ・ジョーンズブラスアンサンブルがマンロウのアレンジをほぼそのまま現代楽器に移した形の録音があり、これはひところ夢中で何度も繰り返し聴いていた懐かしいアルバムだ。

P9290575最後に聴いたのは、マンロウの死後ロンドン古楽コンソートのメンバーが集まって録音した「W.バードとその時代の音楽」。
スザートの舞曲集でクルムホルン、リュート、ヴィオールなど八面六臂の活躍をしていたジェイムズ・タイラーがリーダーとなっている。昭和55年度芸術祭参加の2枚組LP。

真摯な演奏だがマンロウの抜けた穴は大きい。マンロウが加わった時の演奏に感じられる音楽を心から楽しむ高揚感が全くないのだ。

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2006年9月28日 (木)

コレギウムアウレウムの水上の音楽

今日は多少汗ばむような良い天気。練習日なのだが娘の塾への送迎のため休んでしまった。

KechiKechi Classcicsの林さんの掲示板で、コレギウム・アウレウムのことが話題になっていたので何枚か聴いてみた。
60年代から70年代の初めまで、作曲された当時の楽器を用いて活動していたコレギウムアウレウムだが、古楽研究が進んでいる今では、奏法やその他の中途半端さで顧みられることがなくなってしまった。

P9280568P9280569聴いたのは「水上の音楽」全曲。ハルモニアムンディ原盤のテイチクから出ていたLP。1971年録音。
古雅な響きとのびのびとした演奏、そしてアコースティックな素晴らしい録音で、今でも充分に楽しめる団体だ。同じくティチクから出ていた同じ演奏のCDと比べてみる。

LPはアナログ的なふっくらと暖かな再生音。楽器の輪郭はCDの方が鮮明だが響きの重心が多少高音よりだ。おそらく再生装置によってかなり印象が変わる録音だと思う。
ティチクのハルモニアムンディの一連のLPは、どれも良い音がしていた。

P9280571P9280570P9280572_1「水上の音楽」の序曲を古楽器で演奏しているガーディナーとホグウッドの演奏と比べてみたが、ピッチはあきらかにコレギウムアウレウムの方が高い。おそらく現代ピッチなのだろう。
コレギウム・アムレウムより少し古い演奏で、古楽器のパイオニア的存在だったサーストン・ダートの演奏になると完全に現代楽器の響きだ。

P9280573今日の締めくくりは、コレギウム・アウレウムの「ブランデンブルク協奏曲第4番」。ブロックフレーテをリンデが吹き、古楽器界の大御所レオンハルトがチェンバロを弾いている。
各楽器が対立し立体的に絡みつつ、次第に一つの方向に収斂しながら大きく音楽が飛翔していく第3楽章が圧巻。
もはや古楽器、現代楽器という範疇を超越した名演だ。

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2006年9月27日 (水)

テユーレックのゴールドベルク変奏曲

朝から降っていた雨は午後には上がった。朝、胃のレントゲン検査を済ませ職場に向かう。朝食抜きはちょいと辛い。

今日は先月ヤフオクで落としたボールト&ロンドンフィルのチャイコフスキーの交響曲第5番を聴くことにした。日本コロンビアから60年代に出ていたLPで、ミラーインターナショナルによる普及盤。ボールトのチャイコフスキーは「イタリア奇想曲」や「白鳥の湖」「くるみ割り人形」の録音があるが交響曲は珍しい。

P9270566第1楽章から平板でユルイ演奏。しばらく聴き進めたがあまりにも凡庸な演奏で退屈してきた。ボールトの演奏は、穏健で自然体な中にも格調の高さが感じられるのだが、この録音はルーティンな演奏に終始している。第2楽章が終わったところでB面に変えようとレコードを手に取りレーベルを見て、思わず目が釘付けとなった。

なんとそこにはJohn Prichardの文字。プリッチャードの演奏だったのだ。ジャケットは裏も解説もエードリアン・ボールトとなっているのに。
日本コロンビアには時々この種のチョンボがある。コマンドレーベルの音源をシリーズ化したときに、ジャケット表示は「アパラチアの春」なのに実際は「ロデオ」が収録されていたLPを製品化したのも日本コロンビアだった。

期待していただけに第3楽章以降を聴く気が萎え、そのまま袋に入れてしまった。

P9270567お口直しにロザリン・テユーレックの弾く「ゴールドベルク変奏曲」を聴くとする。
これは6年ほど前に外盤で格安で出回ったCD200枚の大物セット、「20世紀の偉大なピアニストたち」シリーズ中のCD2枚組。国内盤は20万円近くで出回っていたが外盤では3万円台で買えた。

止まりそうなほど遅い冒頭アリアに驚かされるが、全て必然性を持ったテンポであることが後の変奏曲が証明してくれている。淡々とした中にも深遠なバッハの世界が自然と広がる素晴らしい演奏だ。

P9270565沼響のHPの聴き比べコラム「ラフマニノフの2番を聴く」をアップしました。
今回はテノール歌手のホセ・クーラの振る演奏。連載36回目。

涼しくなってきたので、そろそろ「第九」の聴き比べも再開しようかとも思う。

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2006年9月26日 (火)

グローヴズ卿の音楽箱

週の始めだというのにいささか疲労気味。年末にかけての仕事の密度を考えると気が重くなる。加えてこれからPTAの行事目白押し。
今晩も11月のバザーに向けての会議で10時を回る帰宅となってしまった。最後まで付き合ってくれた校長、教頭両先生の表情も疲労気味。

明日は胃のレントゲンの検査があるのでビールも飲めない辛い夜。このような晩は軽い曲を聴いて早々と寝ることにする。

P9260582P9260583_1聴いたのは、デンオンがイギリスの名指揮者、サー・チャールズ・グローヴズを起用しイギリスで録音した「グローヴズ卿の音楽箱」というアルバム。オケはフィルハーモニア管。確かこのシリーズはCD3枚分ほどの録音があったと思う。第一集はエルガーの「威風堂々」全曲、愛の挨拶、グリーンスリーヴズ幻想曲などの定番に加えてカバレフフキーの「道化師」、そして「動物の謝肉祭」というもの。
90年代の初めに1300円廉価CDシリーズに何曲かを編集した形で再発された。

「愛の挨拶」とモーツァルトのドイツ舞曲の格調の高さもさることながら、名指揮者たちがまず録音することがないような「森の水車」「クシコスの郵便馬車」「金婚式」といった軽い曲でも、グローヴズは慈愛に満ちた全力投球の演奏を聴かせてくれる。

「踊る人形」の絶妙なルフトパウゼ、ウィットに富んだ「ワルツィングキャット」なども楽しい。「トランペット吹きの子守唄」などは二本のトランペットで吹かせる珍しい演奏だ。
曲目も変化に富み、聴いていて心温まる実に良いアルバムだ。

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2006年9月25日 (月)

アンリエット・ピュイグ=ロジェの音楽紀行

今日も涼しい、庭先にアブラゼミの遺骸を見つけ夏が去ったことを実感する。

P9250580今日はフォーレのレクイエムを聴いた。聴いたのはバレンボイム指揮のパリ管による演奏。フィッシャー・ディースカウがバリトンを歌っている。バレンボイムがパリ管の音楽監督に就任してまもなくの録音で、合唱は、パリの団体ではなく、エジンバラフェスティバルの合唱団となっている。
バリトンもオケも実にうまいが、あまりにもシンフォニックなフォーレで、清楚なイメージからほど遠いレクイエム。
その中で光っていたのが、アンリエット・ピュイグ=ロジェのオルガン。彼女はクリュイタンスの録音でも弾いていたはずだ。

ローマ大賞を受賞しレジェン・ドヌール勲章まで受け、フランス音楽界の国宝的存在だったピュイグ=ロジェ女史は、東京芸大や国内の音楽大学に何度も招かれ、来日時に貴重な録音を残していった。

P9250581そのなかの一つ、アポロンから出ていた「ピュイグ=ロジェの音楽紀行」を聴く。ダングルベールからラモー、チマローザからセイシャスまでの20曲。フランスからイタリア、スペインに至る南ヨーロッパのクラブサン楽派を巡る珠玉の曲の数々を集めた素敵なアルバム。
余り知られていない曲ばかりだが、ピュイグ=ロジェの手にかかるとたちまち光彩を放つ名品と化していく。

P9250579続いてソニークラシカルへのドビュッシー&フォーレピアノ曲集。「月の光」に始まり「月の光がふりそそぐテラス」に終わるドビュッシーに加えて、フォーレの1番と6番の2つのバルカロールを挟んで5番と6番の夜想曲が演奏されている。

ドビュッシーとフォーレの数多い作品の中から選びぬいた作品を作曲年代順に並べ、しかも均整の取れたプログラムとした見事なアルバムだ。いずれも深く心に残る慈愛溢れる名演。
ただしこれは10年ほど前に出た1,000円のシリーズ物CDだがあまり音が良くない。これはオリジナルのLPを探そう。

P9250578最後に三上明子のフルートでブラヴェのソナタト短調を聴く。
「フランス フルート音楽の系譜」という1989年の録音で、ブラヴェからドヴィエンヌ、ゴーベール、ルーセル、ケックランを経てメシアンに至るフランスのフルート音楽を俯瞰するアルバム。ここでロジェ女史は、チェンバロとピアノを弾いている。

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2006年9月24日 (日)

「英雄の生涯」自作自演

古くからお世話になっている「ゆらむぼさん」の掲示板でR.シュトラウスが話題になっているのを読んで久しぶりにR.シュトラウスを聴きたくなった。

P9240576R.シュトラウスといえば主要な自作の管弦楽作品の殆ど全ての自演録音があり、曲によっては2種類あるものも多い。そのような中で今日は「英雄の生涯」を聴く。
1944年6月、R.シュトラウス80歳の誕生日を記念して録音されたもの。オケはウィーンフィルで、70年代にエテルナから出ていたLP。

80歳とは思えない颯爽として豪快な演奏。指揮者としても一流だったシュトラウスだが、残された映像で見る限り、右手を単純に上下するだけのぶっきらぼうな棒だ。
しかし、この録音はウィーンフィルが本気になって食いついていくのが良くわかる凄い演奏だ。当時のコンマスはシュナイダーハンだったはず。録音もモノラルとはいえ実に鮮明。
歴史の荒波を超えてよくぞ残っていてくれたと思う。

自作自演でこれほどの演奏が残されているので、他の演奏は影が薄いようにも思えるが、実はそれほど単純ではなく、R.シュトラウスと親交のあったC.クラウスやW.メンゲルベルクも全く異なったスタイルで名演を残している。

P9240574P9240573C.クラウスの1951年録音は、自作自演と同じウィーンフィルで、ヴァイオリンソロはボスコフスキーが弾いている。作曲者よりもぐっと遅いテンポのしなやかで室内楽的な美演。
一方、「英雄の生涯」を作曲者から献呈されたメンゲルベルク。
20年代に早くもニューヨークフィルを振った録音もあるが、今日は1941年のコンセルトヘボウ管との録音を聴く。
冒頭から極めて遅いテンポ、メンゲルベルク特有のデフォルメが随所で聴かれる演奏だった。オケの技量はウィーンフィルよりも上だ。

P9240575ステレオ期になってからのウィーンフィルの演奏も聴きたくなった。R.シュトラウスの弟子筋にあたるベームの録音もあるが、今日聴いたのはショルティの77年録音。
ウィーンフィルの豊麗で美しい音が部屋中に満ち溢れる豪快な演奏。難しいことを言わなければオーケストラ音楽を聴く醍醐味を存分に堪能させてくれる演奏だ。ヴァイオリンは、ライナー・キュッヘル。

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2006年9月23日 (土)

フォルスターの天地創造

今日はお彼岸天気も良い。朝、家の近くのお寺に墓参りに行く。帰宅後、墓参りの帰りに寄った親戚としばし雑談。

P9230571P9230569今日はハイドンのオラトリオ「天地創造」を聴く。
演奏は、先日ブルックナーのミサ曲で手堅い演奏を聴かせてくれたフォルスターの指揮するベルリンの聖ヘドウイッヒ大聖堂聖歌隊、EMI原盤の国内盤LP3枚組。オケはベルリン響。

ベルリンの聖ヘドウイッヒ大聖堂の大司教でもあったフォルスターは、聖歌隊の楽長も兼ね、60年代始めに聖歌隊は黄金期を迎えていた。
録音では、フリッチャイやクリュイタンスの「第九」、ベームの「ミサ・ソレニムス」での重厚なアンサンブルが印象に残っている。
このハイドンではソプラノのグリュンマー、テノールのトラクセルが加わる。

当時宗教音楽の権威とされたフォルスターの奇を衒わない確信に満ちた指揮と、密度の濃い深い響きの合唱に圧倒される演奏。特に第二部終曲アレルヤの壮麗な二重フーガは感動的だ。独唱もうまい。
録音も鮮明で大合唱の中で低音を支えるコントラファゴットの重厚な響きがはっきり聞こえる。

P9230570第二部だけ、ハイドンを得意としたウエルディケの演奏で聴いてみる。シュティヒ・ランダルやデルモータといった1950年代にウィーンを中心に活躍していた歌手を集めたアマデオ盤のLPで1957年録音。ウィーンフォルクスオパーのオケと合唱団。

こちらはドイツ的重厚さが特徴のフォルスター盤と対照的なウィーン風の典雅さに満ちたハイドン。どちらも日常的で自然体の演奏だが、ウエルディケ盤は独唱は良いが合唱とオケが弱い。音も2枚に詰め込んだために平板な響きになってしまった。

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2006年9月22日 (金)

サヴァリッシュの魔笛

昨日の練習も井崎先生の日。「第九」の第4,3楽章に加え、最初に「魔笛」序曲の練習となったが、仕事のため痛恨の遅刻。会場に着いたときは既に「魔笛」の後半部分だった。

続く第九の第4楽章は、ざっと通した後、難関の終盤のマエストーソからプレスティッシモのテンポ変化を入念に団員に叩き込む。
が、団員の中に凝り固まっている「第九」の一般的な解釈がどうしても抜け切れない。
井崎先生の理想と、団員の技量と感覚のギャップがあまりにも大きい。
本番までの少ない練習回数で、先生の意図を団員が充分に汲み取ることができるのだろうか?
10月の合宿は井崎先生と団員との壮絶なデスマッチとなりそうだ。

P9220568今日は1983年のバイエルン国立歌劇場の「魔笛」全曲をLDで視る。
20年以上前のグルベローヴァ、アライサ、そして今は亡きルチア・ポップの若々しい姿。
引退してしまったサヴァリッシュの颯爽とした指揮も素晴らしい。
今見ても年代を感じさせない最高の名舞台だ。

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2006年9月20日 (水)

アラウのノヴェレッテン

ここのところ天気も良いので再び自転車通勤を始める。狩野川の堤防上を走らせる時、頬に触れる秋の風が心地よい。

P9200566今日はクラウディオ・アラウの弾くシューマンを聴く。聴いたのは8曲の「ノヴェレッテン」。
70年代にフィリップスへ残した一連のシューマンのピアノ曲集中の一枚。

アラウは、最後の来日時にリストを聴くことができた。足元のおぼつかぬ小柄な老人の手が鍵盤に触れるや否や、ふわりとした羽毛のような音がピアノから吹きこぼれてきた。その暖かで柔らかな音色は今でも忘れられない。今まで実演に接したピアニストの中で最大のピアニストだった。

実演で聴かれたあの音は残念ながらディスクでは聴くことはできないが、このシューマンも強固な構成の中に幻想的な趣の漂う名演だ。

P9210567沼響のHPに聴き比べ「ラフマニノフの2番を聴く」をアップしました。今回はアメリカの中堅指揮者、A.リットンの全集中の一枚。連載35回め。

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2006年9月19日 (火)

バルビローリの「エニグマ変奏曲」

周りはすっかり秋の気配。土曜日の運動会でもグラウンドに赤とんぼが飛んでいた。

P9190574昨日聴いたブルックナーのミサ曲で名唱を聴かせていたスペインのソプラノ歌手、P.ローレンガーのディスクから聴き始めることにする。
「ローレンガーの肖像」というデッカから出ていたたLPで、「ドン・ジョバンニ」「トスカ」「蝶々夫人」などのオペラアリア、そしてお国物のファリアとグラナドスを集めたアルバム。伴奏はロペス・コボス指揮のロンドンフィル。

知的で硬質な声質、どの曲も実に安定した名唱揃いだが、いくぶん華に欠けるかもしれない。ロベス・コボスの伴奏は見事なものだ。

P9190573司馬遼太郎の「風塵抄」を読みながらこの演奏を聴いている。1987年から89年に産経新聞の朝刊に連載されていたものをまとめた随想集。時はバブルの絶頂期。
司馬さんの鋭い視点はすでにバブルの崩壊を予見し、戦後秩序が現実にあわないほどに古び、この社会が耐用年数に達していることを指摘している。

P9190571P9190572続いてバルビローリの指揮する「エニグマ変奏曲」を聴く。パイ原盤のティチクのLPで、同じくエルガーのチェロ協奏曲とエレジーが入っている。1956年のステレオ録音。オケはハレ管、チェロ独奏はアンドレ・ナヴァラ。
気心知れたハレ管とのエルガー。フィルハーモニア管と再録音もあるが、ヒューマンな暖かさではこちらが上だ。ただしチェロ協奏曲は、デユ・プレとのライヴの感銘の深さには及ばない。

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2006年9月18日 (月)

ラインスドルフのモーツァルト

台風の影響だろうか、湿った空気が南から流れ込む実に蒸し暑い朝。昼前から沛然たる驟雨となる。連休も今日で終わりだが、雨の一日を家でゆっくり過ごす。

P9180568今日は久しぶりにブルックナー。聴いたのはカール・フォルスター指揮するベルリン聖ヘドウィッヒ合唱団、ベルリン響による「ミサ曲第3番」。とりたてて大名演というほどの演奏ではないが、重厚な合唱とローレンガー、ルードウィッヒらの実力派の独唱で聴かせる演奏。フォルスターの指揮も自然体のブルックナーで良い。

P9180567続いてラモーの「6つの組曲」。クラヴサン曲をラモー自身が弦楽合奏用に編曲したもの。こちらはルイ・ド・フロマン指揮のオワゾリール合奏団によるオワゾリール録音のモノラルLP。
縦の線が不揃いで洗練度に欠けるのが気になるが、典雅な雰囲気は充分に伝わってくる。ただし6曲続けて聴いていると、どれも同じように聴こえてきた。これは演奏に責任がありそうだ。

P9180569もうひとつ、ラインスドルフの若い頃の録音を聴いてみた。LP初期時代のコロンビアの入門者用のアントレシリーズのモノラルLPで、モーツァルトの交響曲第40番とシューベルトの「未完成」。オケはロチェスターフィルで1950年代初めの録音。

速いテンポのトスカニーニの演奏に極めて似ているスタイルだが、リズムが硬直気味なシューベルトは余りにも即物的で潤いに欠ける。モーツァルトも同じようにサバサバした演奏だが、こちらはきっちり整然とした中に僅かにテンポを落とすのが面白い。ただし第4楽章中間部のホルンが全く聞こえてこない。これは編集ミスだと思う。

P9180570お次もラインスドルフのモーツァルトで、史上初の交響曲全集となったウエストミンスター盤。
こちらのオケはフィルハーモニック・オーケストラ・オブ・ロンドンとなっているが実体はロイヤルフィル。聴いたのはCD初期にMCAから出たダブルデッカーシリーズ中の1枚。カップリングされた第39番と「ジュピター」はモノラルだが第40番はステレオだ。

後のボストン響とのモーツァルト録音と比べて、颯爽とした速いテンポの演奏だったように記憶していたのだが、ロチェスター盤と比べると遅いテンポのワルター風のロマンティックな演奏だったのに驚いた。

ザルツブルクでトスカニーニとワルターの助手だったラインスドルフ。どうやら二人の巨匠の対照的で強烈な個性の影響が、この二つの録音に両極端な形で現れたようだ。

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2006年9月17日 (日)

デ・サーバタとI.フィッシャーのコダーイ

昨日運動会の合間にちょいと職場に顔を出したものの、久しぶりの連休を楽しんでいる。
朝から急に涼しくなり、九州に上陸した台風の影響で午後から雨。

P9130565P9170565昨日聴いたI.フィッシャーのマーラーから「さすらう若人の歌」から聴きはじめる。メゾ・ソプラノのタカーチュのきっちりとした歌唱とフィッシャーの絶妙のサポート。「巨人」以上の名演だ。

引き続きフィッシャー兄弟のコダーイ管弦楽曲集も聴く。ブリリアントから出ている2枚組CDで、I.フィッシャーは「ハンガリー詩篇」「マロシュセク舞曲」「ガランタ舞曲」の3曲を振っているフンガトロン原盤。CD2枚で800円ちょっとの超お買い得盤。オケはブタペスト祝祭管。
5才の時にコダーイの教えを受けたというI.フィッシャーのコダーイ。リズムの切れも良く、鳴るべき音は全て聞こえるような良く歌う演奏だった。「ガランタ舞曲」のホロリとさせるような歌いまわしの妙も光る。

P9170566「ガランタ舞曲」はかつて沼響の定演の曲目候補に上がったことがあり、我が家でオケのメンバー数人といろいろな演奏を聴いたことがある。

この時満場一致の賛同を得たのがデ・サーバタの演奏だった。
ベルリンフィルを振った1939年の古い録音だが、核心を衝いた純音楽的な名演に皆我を忘れて聴き惚れた。クラリネットをはじめとする管楽器のソロも極上。KOCHの復刻技術も優れたものだ。

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2006年9月16日 (土)

1889年、ブタペスト版の「巨人」

今日は娘の運動会。PTAの役員ということで来賓席に案内されたが、校長先生や地域のお偉いさん達と同席するのも気兼ねなので辞退。
校舎の中庭に行き、角の芝生の上に家族でお昼をとる場所を確保、ビニールシートを敷いてしばらく横になる。澄んだ秋空に流れる雲を見ながら、娘の出番を気にしつつ持参のCDプレーヤーで音楽を聴いた。涼しい秋風が頬を撫でる至福の時間。

帰宅後、先日聴いたラフマニノフの交響曲第2番の演奏が非常に印象に残ったイヴァン・フィッシャーの演奏を聴く。

P8240527_1ハンガリーのフンガトロン原盤のLPで、マーラーの「巨人」と「さすらう若人の歌」の2枚組国内キング盤。1981年録音。
オケはハンガリー国立響、メゾ・ソプラノはクララ・タカーチュ。
「花の章付き、1889年ブタペスト版と書いてある。

偉大な指揮者でもあったマーラーは、自分の作品を指揮する際には、リハーサルを重ねながら譜面にいろいろと手を加えていった。
「巨人」には、1889年ブタペスト版、1893年ハンブルク演奏版、1896年ベルリン演奏版があるとされる。
この中の1896年版が現行の4楽章形式の出版譜で、最も演奏されている版だが、1959年にハンブルク版が発見され、ベルリン版以降カットされていた「花の章」を加えて演奏する指揮者も現れた。ちなみに「巨人」というタイトルはハンブルク版のみに書かれたタイトルで、ベルリン版以降は「花の章」とともにカットされている。

ところで、マーラーがブタペスト初演の際使用した初稿は、1893年のハンブルクでの演奏の際大幅に手を加えられそのままハンブルク版に姿を変えたため、初演時の形では存在しないというのが定説になっている。
若杉弘が都響を振った録音も、ブタペスト初演版に基づくハンブルク版使用となっていたはずだ。

となるとこのフィッシャー盤の1889年ブタペスト版使用というのはどうも怪しい。新発見の譜面なのかというと、どうもそうではないらしい。
実際聴いてみるといわゆる現行の全集版(1967年版)とほとんど区別がつかなかった。

たとえば、第3楽章(現行の第2楽章)冒頭では、ブタペスト版に最も近いハンブルク版に付加されていたティンパニはなく、第4楽章(現行の第3楽章)「葬送行進曲」冒頭コントラバスも、ハンブルク版ではチェロとコントラバスのユニゾンだったのが現行版と同じコントラバスソロになっている。(1992年に出た新全集版は、ここの部分がコントラバスユニゾン!になっているらしい)

ところが、オーケストラの響きは全集版よりも鄙びて枯れた音がする。普段聴き慣れている演奏と比べるとずっと編成が小さいような雰囲気なのだ。
謎が深まってきた。しばらく眠れぬ夜が続きそうだ。

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2006年9月14日 (木)

井崎先生の第九

今日の練習は、本番を振っていただく井崎正浩先生による「第九」初練習の日。
幸いにして仕事の切れが良く練習開始15分前には会場へ到着。
ホールロビーでは別会場で練習を行う合唱団のメンバーが受付をしている。

P9140571井崎先生とは、台風直撃の第20回定演の「幻想交響曲」以来2年ぶりの共演。
今回は沼響初の対向配置、しかもかなり速いテンポらしいということで、団員も緊張気味。
演奏会のポスターも出来、本番に向け次第に団員のテンションも上がってきたようだ。

まず第一楽章をサラリと流す。速めのテンポだがそれほど違和感は感じない。先生の一言一言に、ベートーヴェンが楽譜に込めたメッセージをできるだけ当時のスタイルに忠実に再現しようとするのが良くわかる。
アクセントの意味、ベートーヴェン時代の奏法など、極めて説得力のある説明に目からウロコ状態。

今回で3回目となる沼響の第九だが、今までの先入観を洗い流し、リセットした状態で練習に臨む必要がありそうだ。

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2006年9月13日 (水)

ベルゲルのドビュッシー

ヤフオクで落とした音盤が届いていた。

P9130566一枚はキングから出ていた45回転のドーナツ盤で、デンマークの二人の指揮者トウクセンとイェンセンが「フィンランディア」と「トゥオネラの白鳥」を振っているもの。オケはデンマーク放送響。さっそく「トゥオネラの白鳥」を聴いてみた。
穴の大きなドーナツ盤を聴くのは久しぶりで、アダプターを探すのに一苦労。モノラルながらデッカの録音、しかも45回転ということもあり音には不満はない。ニールセンの弟子、トーマス・イエンセンの指揮する淡々とした語り口の渋いシベリウス。

P9130567P9130570_1もう一枚は、ルーマニアの指揮者、エーリヒ・ベルゲルが1976年の来日時に読売日響を振ったもの。東芝のプロユースシリーズの一枚で、「牧神の午後への前奏曲」「禿山の一夜」。これは、もっぱらオーディオ的な視野で制作されたLPらしい。和田則彦氏の解説には、「ルーマニアの謎の名指揮者ベルゲル氏のご協力で製作する事ができた。」という記載がある。

P9130568_1P9130569_1ベルゲルといえば晩年(1998年没)N響にも来演しているが、テレビで見たモーツァルトのデモーニッシュな尋常ならざる指揮ぶりが今でも忘れられない。

1991年にブタペストフィルと入れた「エロイカ」と、ベルゲルの故郷トランシルバニアフィルを振ったブラームスの交響曲全集から、第4番の第2楽章を聴いてみた。
いずれも、澄み切った静けさの中に青白き炎が揺らめく不思議な演奏だ。

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2006年9月12日 (火)

レッパードのハイドン

日一日と涼しくなってくる。山で鳴くツクツクボウシの声も次第に寂しくなってきた。夕方から雨、どうやら今週は雨模様の一週間となりそうだ。

P9120562今日もレッパードを聴いてみる。聴いたのはハイドンの交響曲第48番「マリア・テレジア」。フィリップスから出ていたLPで1970年録音、カップリングは交響曲第70番。オケはグリーグと同じイギリス室内管だ。レッパードはこの時期にハイドンの中期の交響曲を集中的に録音していたらしい。

トランペットが活躍する華やかな交響曲で、ハイドン中期の交響曲群の中の傑作。祝祭的な気分溢れる躍動感に満ちた演奏だ。余計なことをせずひたすらまっすぐな演奏なのが心地良い。

レッパードはデジタル時代になってからもハイドンを録音している。
P9120563こちらはエラート録音で2枚組CDのBONSAIシリーズ。オケはスコットランド室内管で、「時計」「驚愕」「ロンドン」、そして98番の交響曲。1982、83年の録音。

48番から10年以上経ったレッパードのハイドン。音楽の自然な流れの中に濃い陰影も感じられる見事な演奏。特に「時計」が良い。スコットランド室内管の秋色の渋さを漂わせた音色が、熟成された独特の味わいを出している。

だが、いくぶん旋律をレガート気味に滑らせた「ロンドン」など、古楽器の演奏を聴き慣れた耳には古風に聞こえる。巨匠タイプの古いハイドンで、レッパードは年を経るにつれ、時代に逆行するロマンティックな方向に傾いていったようだ。

P9090561沼響HPの聴き比べコラム「ラフマニノフの2番を聴く」をアップしました。
今回はハンガリーのフィッシャー兄弟の弟イヴァンによるブタペスト祝祭管の対向配置による演奏。連載34回目。

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2006年9月11日 (月)

レッパードのグリーグ

今日は仕事を終えた後に久々のPTAの会合。これから秋の行事目白押し、しかも来年度の役員の候補選びも始めなければならない。
日頃、さまざまなご意見ご要望を学校に投げかける親は多いが、いざPTAの役員の話を向けると皆一様に口を噤んでしまう。現金なものだ。

P9110564今日はレイモンド・レッパードの指揮する「ペール・ギュント」を聴いた。オケはイギリス室内管で1975年録音のオランダ・フィリップス盤LP。「ペール・ギュント」の二つの組曲とノルウェー舞曲のカップリング。

レッパードの録音はひところ非常に沢山の数が出ていた。特に70年代半ばから増え、それなりに評価も高かったように記憶している。このグリーグは爽やかでロマンティック、心のこもった丁寧な歌心に好感を覚える。演奏の出来としては「ノルウェー舞曲」の方が良い。

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2006年9月10日 (日)

ペトロフのラフマニノフ

今日も朝から天気が良い。蒸し暑さはあい変らずだが、澄んだ空の青さは秋を感じさせる。
早朝、家の近くの畑の様子を見に行ったところ、アスファルトの路上になにやら腹を天に向けて転がっている。良く見ると体調20センチ余りのモグラだった。夜間アスファルトの道路上に迷い出て、彷徨っている間に夜明けとなり頓死してしまったらしい。

それにしても子供の頃から見慣れたモグラに比べるとずいぶんと大きい。色も茶褐色なのが気になる。いろいろと調べてみたら、どうやらコウベモグラという種類らしい。

Img026_1ものの本によると、日本には最初の氷河時代に大陸から渡って来たアズマモグラが古来幅を利かせていたが、その後の氷河期に渡って来たコウベモグラが西からしだいに東進、今はちょうど富士山を境に東はアズマモグラ、西はコウベモグラの縄張りとなっているらしい。
ちょうどその境目となっている我が家のあたりは、かつてアズマモグラの縄張りだったのが、今はコウベモグラに取って代わられたということらしい。
地面の下では過酷な生存競争が繰り広げられているということだ。モグラの遺体は近くの川に水葬とした。

P9020545今日は最近興味を持ったロシアのピアニスト、ニコライ・ペトロフの演奏を聴く。曲は、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番とラフマニノフのピアノ協奏曲第4番のカップリングのメロディア原盤のビクター盤LPで、ロジェストヴェンスキー指揮のモスクワ放送響の伴奏。ペトロフ20代の録音らしい。

ピアノソナタ全集の録音もあるプロコフィエフが達者な演奏だが、ほの暗いロマンが深く沈潜していくラフマニノフがより素晴らしい。

P9100563もう一枚、昨日のジョン・健・ヌッツォで聴いた「誰も寝てはならぬ」が聴きたくなった。こちらもはや定番のパヴァロッティ。
1985年に故郷のモデナで歌ったライヴのアンコール曲で、当日の公演曲18曲を収めた2枚組英盤LPから。伴奏はバックリー指揮のトスカニーニ響。
パヴァロッティ独特の張りと艶の有る朗々たる歌声が素晴らしい。一度生を聴いてみたいものだ。

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2006年9月 9日 (土)

ジョン・健・ヌッツォ テノールリサイタル

昨日に続き湿度の高い暑い日が続く。
仕事を済ませた後、沼津楽友協会秋の例会「ジョン・健・ヌッツォ テノールリサイタル」に行く。沼津市民文化センター小ホール。

沼津楽友協会は労音時代からの歴史を持つ地元のクラシック音楽鑑賞団体だが、最近は会員も減り、リヒテルやフェドセーエフらを招聘した全盛期に比べるとアーティストもだいぶ小粒になってしまった。
かつてのような魅力はかなり薄れてしまい脱会も考えたこともあるが、地方都市にクラシック音楽の愛好家を育てようとする事務局の方々の心意気になんとか応えたいとも思い会員を続けている。

今日は、NHK大河ドラマ「新撰組」のテーマ音楽を歌ったことで知られる「ジョン・健・ヌッツォ」のリサイタル。お客の8割ほどは女性で、しかも年齢層がかなり高いのに驚いた。

曲は、お馴染みの「新撰組」のテーマや「ウエストサイドストーリー」から始まる。あまり期待してなかったのだが、次に歌ったベートーヴェンの「アデライーデ」、シューベルトの「美しき水車小屋の娘」のドイツリートがなかなか良い。正統派のリリックテノールの歌唱だ。
あらためて経歴を見たら、ウィーン国立歌劇場やメトで歌っている実力派だと初めて知った。

P9090562本人のトークでプログラムは進行、その中で名テノールのフリッツ・ヴィンダーリッヒを非常に尊敬していることを知り、大いに納得。
続くモーツァルトのオペラアリアも含め、プログラム前半の曲目はヴィンダーリッヒの得意としていた曲ばかりが並んでいる。
写真はヴィンダーリッヒの1965年ザルツブルク・リサイタルのPILZ盤。

後半には「帰れソレントへ」や「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」、といった今や誰でも知っている曲が並ぶ。中でも「ウエストサイドストリーからマリア」が秀逸。
アンコールは「荒城の月」「赤とんぼ」、そしてミュージカル「レ・ミザレブルから」。
手馴れたトークも含めて充分楽しませてもらった一晩だった。

P9090560沼響のHPに聴き比べコラム「ラフマニノフの2番を聴く」をアップしました。連載33回目。今回はスコットランドの実力派、サー・アレキサンダー・ギブソン晩年の名演。

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2006年9月 8日 (金)

23年ぶりの「魔笛」

今日は湿度の高い一日となった。昨日のオケの練習は「魔笛」序曲から始まる。仕事をなんとか早めに切り上げ、練習の開始にようやく間に合った。

「魔笛」序曲は沼響第一回定演に取り上げた思い出深い曲。当時も今も自分は2番ホルン。パートナーの1番ホルンのメンバーも現在沼響に残る数少ない創立当時のメンバーだ。お互いに20代の昔にタイムスリップしたような気分でモーツァルト最晩年の作品を吹く。

P9080555今日は、ザルツブルク音楽院の重鎮だったベルンハルト・パウムガルトナー教授の「魔笛」序曲を聴いた。フィリップス録音の国内LPで、モーツァルトの5つの序曲と「アイネクライネ」と「セレナータ・ノットウルノ」が入っている盤。オケはウィーン響、「ノットウルノ」のみザルツブルク・モーツァルテウムのオケとなっている。1961年、65年の録音とされる。

いくぶん武骨で聴き手に媚びないモーツァルト。序曲の後半で多少走り気味なのが気になるが「アイネクライネ」では遅いテンポの深く沈潜した独特の演奏を聴かせてくれる。

P9080557P9080556同じ演奏がかつてフォンタナのFG規格の廉価盤LPでも出ていた。こちらは5つの序曲のほかに12番のセレナーデとドイツ舞曲数曲。「アイネクライネ」「ノットウルノ」は入っていない。

パウムガルトナーの「アイネクライネ」では、モーツァルテウムのオケを振った録音もあったことを思い出した。棚の奥からACANTAのLPを探し出し、カップリングされた交響曲第40番まで聴き始めてしまった。こちらはフィリップス盤以上に厳格で、一歩一歩踏み固めるようなモーツァルト。長めの間の取り方が実に独特だ。40番ではオーボエ版を使用している。

P9080558ここまで来るともう止まらない。同じくパウムガルトナーのモーツァルトで、オイロディスクに残した一連の交響曲録音から「ハフナー」、「ジュピター」の2曲も聴く。日本コロンビアから70年代に出ていた1,000円盤、ヒストリカルレコーディングシリーズの一枚。同じシリーズから「リンツ」と「プラハ」のカップリングも出ていた。オケはザルツブルク・モーツァルテウム音楽院管。

リピートを全て励行、音はとても美しいとは言えぬが弓をべったり使ったような力強いモーツァルト。スピード感にも不足せず勢いのある気合充分の演奏だ。枯れたアカンタ盤よりも若い頃の録音かもしれない。

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2006年9月 6日 (水)

ハクビシン跳梁跋扈す

昨日は仕事の帰りに、仕事仲間と居酒屋に立ち寄った。ところが久しぶりにホッピーの焼酎割りを空きっ腹に何杯も飲んだのがまずかった。軽く一杯のつもりがたちどころにアルコールが体内を巡り、一気に酔いが加速。足元がフラツキ情けない姿。

P6130400_1早々と帰宅したら、家族が揃って2階のベランダに何かを見ていた。そこには、先日塾の近くで見かけたハクビシンが目の前の電線に止まりこちらを見ている。酔って据わった眼にもはっきり判るほどの至近距離だ。
下の娘が「あ!向こうにもいる!」と指差した。別の電線にもう一匹、「まだいる!」。どうやら4匹のハクビシンが電線上をソロリソロリと動き回っているらしい。暗闇を見つめているうちに、頭がクラクラしてしまいそのまま就寝。

P9040554今日は曇天、午後から雨。多少二日酔い気味で頭も曇天。
夜は、イギリスを代表するメゾソプラノ、ジャネット・ベイカーの歌う「イタリア古典歌曲集」を聴く。フィリップスから出ていた国内盤LPで、マリナー指揮のアカデミー室内管の伴奏。

有名な「カロ・ミオ・ベン」で始まり「アマリリ」やA.スカルラッティやガルーダの珠玉の作品が続く。ベイカーの楷書風の格調の高い歌唱、サイモン・プレストンのリュートやチェンバロを効果的に加えた編曲も素晴らしい。

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2006年9月 4日 (月)

フルトヴェングラーのベートーヴェン「交響曲第7番」

今日は朝から寝不足気味で頭が冴えない。午後にあったお偉方勢揃いの重要な会議を無事に切り抜け帰宅。

夕方、娘を家の近くの塾まで送ったところ、車から降りた娘がその場に立ち尽くしている。娘の指差す電柱を見たら、なにやら小動物がくねくねと電線上を這っていた。
猫にしては胴体が長く尻尾が異様に長い。どうやらハクビシンのようだ。
薄暮の空を背景に器用に電線上を移動するその姿は、一種幻想的な雰囲気が漂っている。まるでトトロの猫バスのようだった。

P9040549P9040551_1夜も涼しくなり、フルトヴェングラーのベートーヴェンを聴く気持ちになってきた、
今日聴いたのは、1954年8月30日、フルトヴェングラーが最後にウィーンフィルを振ったザルツブルクでのライヴから交響曲第7番、イタリアLaudis原盤の国内LP。
実はこの演奏はオーストリア放送のオリジナルテープからCD化したものがOrfeoからも出ていて、音は格段にCDの方が良い。

フルトヴェングラー最後の年のベートーヴェン。第1楽章のオーボエソロ直前のテンポの落とし方やフィナーレ最後での2番ホルンの強調など、この演奏固有の表現も聴かれる。
第2楽章の慟哭にも似た悲痛な歌が中でも印象に残る。

P9040550EMIへの1950年のスタジオ録音の第4楽章も聴いてみた。こちらは仏パテマルコニのLP。フルトヴェングラー一連のスタジオレコーディングの中では音が悪く、1952年にSPの金属原盤からマスターテープを起こした時に混入してしまった女声の声と紙をめくる音がこのフランス盤でも聞こえている。

P9040552もうひとつ1943年のベルリンフィルとのライヴも聴く。録音は落ちるが演奏の凄さではこれが一番。ジャケットは、フルトヴェングラー初の1,000円盤として話題となった1973年発売のフォンタナ盤。当時中学生の私は、これを聴いて完全にノックアウトされた思い出の盤。今でも時々聴いている。

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2006年9月 3日 (日)

N響のアルメニアン・ダンス

今日は最高気温が30度を超え再び夏に逆戻り、とはいえ湿気は少なく吹いてくる風は秋の気配が感じられる。夜もだいぶしのぎやすくなった。

気持ちよく寝入っていた朝5時に、至近距離で突然鳴り響いたドン、ドンという花火の音に目が覚める。あぁ、今日は地区の体育祭だった。慌てて飛び起きた下の娘が準備を始めている。自分は校区祭には参加せず、家の雑事を片付けながら日曜日をゆっくりすごす。

夜9時過ぎ、教育テレビのスイッチを入れたらN響の管打楽器セクションがA.リードの「アルメニアンダンス・パートⅠ」を演奏していた。これは珍しい。指揮は沼響を振っていただいたこともある山下一史さん。

P9030547_1クラリネット中心にだいぶトラが入っているとはいえN響が吹奏楽を演奏するのは初めてだという。びったり揃ったアンサンブル、あちこちに出てくるソロもさすがにうまい。
N響の管楽器のメンバーの大部分は中高校生時代に吹奏楽部に入っていたのではなかろうか。皆、実に楽しそうに演奏している。
聴いていてこちらも愉快な気分になってきた。ジャケットは1983年3月、アルフレッド・リード初来日ライヴの「アルメニアンダンス」が収録されているLPのジャケット。

P9030548一流のプロオケのメンバーが吹奏楽を演奏した、同じようなノスタルジーと楽しさに溢れた録音でデニス・ウィック指揮のロンドン・ウィンドーオーケストラによるホルスト、ヴォーン・ウィリアムスの吹奏楽曲の入ったエニグマ盤がある。

クラリネットのブライマーやオーボエのキャムデン、トランペットのウィブラハム、チューバのフレッチャーなど、コンチェルトの録音も残しているイギリスの超一流の管楽器メンバーが一同に会し、吹奏楽のオリジナル曲を演奏した実に楽しいアルバムだ。

これからホルストの「ミリタリー・バンドのための組曲第2番」に針を下ろしてみるとしよう。

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2006年9月 2日 (土)

「スカンジナビア」沈没

今日も涼しい。職場に行き月曜日の重要な会議の資料を整える。一服しながらヤフーのニュースを覗いてみたら衝撃的な記事が目に飛び込んできた。
それは、木曜日に沼津から上海に向けて出航したばかりの「スカンジナビア号」が串本沖で沈没、という記事。

S3190832スウェーデンの豪華客船だった「スカンジナビア」が沼津に来て、船上ホテル&レストランとして営業を始めたのは、自分が小学生の時だった。
当初は高級ホテルとして人気を集め、富士山を遠くに望む奥駿河湾に浮かぶ気品のある白い姿は、周囲の景色に何の違和感もなく溶け込んでいた。
船内に入ると、20世紀初頭ヨーロッパの贅を尽くした重厚な調度類や船内装飾が目を楽しませてくれ、船内レストランの北欧バイキングも、値段も一流だが中身も一流だった。

昨年、レストランの閉店の一ヶ月前に家族で昼食を取ったのが最後となってしまったが、豪華なレストランゾーンに比べ、船体は赤錆が浮き、デッキの木材も腐食が進みかなり痛んでいる印象だった。生まれ故郷のスウエーデンで引き取り先が見つかったという話を聞いた時、正直なところあんな遠くまで無事に着けるのかいな、と思ったが、不幸にも心配が現実のものとなってしまった。

31日の上海への出航を見送り、記念品としてスカンジナビアで使われていたお皿をいただいたばかりだという、幼い頃から近くに住む職場の女の子が大きなショックを受けていた。

P9020546P8120514涼しくなったので、沼響のHPに聴き比べコラム「ラフマニノフの2番を聴く」をアップしました。実に一ヶ月ぶりの記事となってしまいました。
今回はオランダのデ・ワールトの2種の録音。連載32回目。

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2006年9月 1日 (金)

ペトロフのシューベルト

朝から雨、9月に入り急に涼しくなった。急激な気温の変化に職場では風邪気味のもの若干2名、部屋の冷房を今日は控えめにする。
開始早々自分の不覚から思わぬ事件が発生、午前中はほとんどその対応に追われる。あまりにも初歩的なミスに少々落ち込み気味となってしまった。

P9010542今日は、ロシアの技巧派ピアニスト、ニコライ・ペトロフの来日時のLPを聴く。1972年の来日時にビクターが録音したもので、シューベルトの「さすらい人幻想曲」、とラヴェルの「ソナチネ」「優雅にして感傷的なワルツ」が入っている。

並外れた技巧と音楽性の持ち主のニコライ・ペトロフ。この演奏の前後に、メロディアに録音したプロコフィエフのピアノソナタ全集が有名だが、人間離れした超絶技巧を必要とするリストの「パガニーニ練習曲」の初版やロシアの現代作曲家カプースチンのピアノソナタの初録音でも知られる孤高のピアニスト。

一種独特の狂気と詩情の漂う不思議な演奏だった。指揮者のチェリビダッケの芸術にも共通するような世俗を超越した孤高の世界。
特にシューベルトは、リヒテルやポリーニらの世評の高い名演を上回る精密な音響が鳴り響く稀有の名演。聴いているうちにどうも通常の版とは違う楽譜を使用しているような気がしてきた。

麻薬のような妖しい魅力の感じられるピアニストだ。しばらく集中してペトロフの演奏を追いかけてみようと思う。

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