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2006年9月16日 (土)

1889年、ブタペスト版の「巨人」

今日は娘の運動会。PTAの役員ということで来賓席に案内されたが、校長先生や地域のお偉いさん達と同席するのも気兼ねなので辞退。
校舎の中庭に行き、角の芝生の上に家族でお昼をとる場所を確保、ビニールシートを敷いてしばらく横になる。澄んだ秋空に流れる雲を見ながら、娘の出番を気にしつつ持参のCDプレーヤーで音楽を聴いた。涼しい秋風が頬を撫でる至福の時間。

帰宅後、先日聴いたラフマニノフの交響曲第2番の演奏が非常に印象に残ったイヴァン・フィッシャーの演奏を聴く。

P8240527_1ハンガリーのフンガトロン原盤のLPで、マーラーの「巨人」と「さすらう若人の歌」の2枚組国内キング盤。1981年録音。
オケはハンガリー国立響、メゾ・ソプラノはクララ・タカーチュ。
「花の章付き、1889年ブタペスト版と書いてある。

偉大な指揮者でもあったマーラーは、自分の作品を指揮する際には、リハーサルを重ねながら譜面にいろいろと手を加えていった。
「巨人」には、1889年ブタペスト版、1893年ハンブルク演奏版、1896年ベルリン演奏版があるとされる。
この中の1896年版が現行の4楽章形式の出版譜で、最も演奏されている版だが、1959年にハンブルク版が発見され、ベルリン版以降カットされていた「花の章」を加えて演奏する指揮者も現れた。ちなみに「巨人」というタイトルはハンブルク版のみに書かれたタイトルで、ベルリン版以降は「花の章」とともにカットされている。

ところで、マーラーがブタペスト初演の際使用した初稿は、1893年のハンブルクでの演奏の際大幅に手を加えられそのままハンブルク版に姿を変えたため、初演時の形では存在しないというのが定説になっている。
若杉弘が都響を振った録音も、ブタペスト初演版に基づくハンブルク版使用となっていたはずだ。

となるとこのフィッシャー盤の1889年ブタペスト版使用というのはどうも怪しい。新発見の譜面なのかというと、どうもそうではないらしい。
実際聴いてみるといわゆる現行の全集版(1967年版)とほとんど区別がつかなかった。

たとえば、第3楽章(現行の第2楽章)冒頭では、ブタペスト版に最も近いハンブルク版に付加されていたティンパニはなく、第4楽章(現行の第3楽章)「葬送行進曲」冒頭コントラバスも、ハンブルク版ではチェロとコントラバスのユニゾンだったのが現行版と同じコントラバスソロになっている。(1992年に出た新全集版は、ここの部分がコントラバスユニゾン!になっているらしい)

ところが、オーケストラの響きは全集版よりも鄙びて枯れた音がする。普段聴き慣れている演奏と比べるとずっと編成が小さいような雰囲気なのだ。
謎が深まってきた。しばらく眠れぬ夜が続きそうだ。

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コメント

ランガナータンさん、こんにちは。
この国内盤LPが出たときの『レコード芸術』月評でも、小石忠男さんが「現行版に『花の章』を加えただけではないか」と、羊頭狗肉ぶりを批判しておられた記憶があります。
(そのおかげで、ずっとI.フィッシャーを軽視してしまい、後悔しました(汗)。)

投稿: 斉諧生 | 2006年9月17日 (日) 00時08分

斉諧生さん、コメントありがとうございます。

このイヴァン・フィッシャーの「巨人」、確かに現行版をベースにした演奏のようなんですが、オケの響き、テンポ変化など、細部で微妙に現行版と異なっています。小石さんの書かれているように、単純に現行版使用とも言い切れない感じです。
ですが、これがフィッシャーの解釈なのか、それとも何か根拠がある結果なのかはわかりません。

当時解説を書かれた岡俊雄さんもこの点は苦慮されたらしく「オリジナルのフンガトロン盤の解説書には譜面の出典についてふれることがない。」と書かれています。
結局、当時出ていたハンブルク版によるモリス盤、現行版に「花の章」を加えたオーマンディ盤と現行版を比較する解説となってしまっています。

フィッシャーほどの指揮者ならば、なんらかの根拠があるとは思うのですが。

投稿: 山本晴望 | 2006年9月17日 (日) 09時12分

> 単純に現行版使用とも言い切れない感じです。
あっ、そうなんですか…。
また手もとのLP(Hungaroton盤なので岡さんの解説が読めません(汗))で聴き直してみます。
 

投稿: 斉諧生 | 2006年9月18日 (月) 22時50分

実に面白く刺激的な内容ですね。現時点でハンブルク稿のこの曲の録音は4組なんでしょうか。

実は来年1月、京都のアマオケにトラで出演させて頂き、金子建志先生の指揮でハンブルク稿の交響詩「巨人」を演奏しますので(既にスコアも入手)、先生に根掘り葉掘り、色々教えてもらってきます。

投稿: 高橋広 | 2006年9月23日 (土) 01時39分

斉諧生さん、高橋さん、コメントありがとうございます。これほど反響があるとは思いませんでした。

高橋さん。
金子先生の指揮でハンブルク版の演奏ですか、いいなぁ。すると第3楽章冒頭はチェロとコントラバスのユニゾンですね。

金子先生は、著書「マーラーの交響曲」の中で、全集版(現行版)とハンブルク版の「質感」・「文体」の違いについて書かれていますが、「花の章」付きのオーマンディー盤が「花の章」と他の楽章と間に大きな質感の違いが感じられたのに対して、フィッシャーの演奏には、その違いが感じられないのです。

ハンブルク版のスコアを購入してみようかな。

投稿: 山本晴望 | 2006年9月23日 (土) 12時43分

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