スウィトナーの「とんぼ」
日曜の夜遅く、NHKBSでN響の名誉指揮者のスウィトナーのドキュメンタリーが放送されていた。
スウィトナーが西ベルリンに残した愛人の息子Igor Heitmannの目を通してスウィトナーの音楽人生を振り返るというもの。2007年ZDF制作。
ドレスデンとベルリンの国立歌劇場の音楽監督だった旧東ドイツ音楽界の重鎮スウィトナーは、東西ドイツの統一と同じ時期に引退同然となってしまった。一時は廃人同様だという噂が流れるほど、消息を聞かなくなって久しかった。
番組では、若い頃のスウィトナーが振るレーガーやモーツァルトなどの貴重な映像と、ベルリン国立歌劇場のメンバーに別れを告げる姿、巨匠の現在の日常生活が紹介されていた。
パーキンソン氏病だというスウィトナーだが、意外なほど元気なのには驚いた。息子の「まだ数年は指揮ができたのでは?」という問いに、「腕が震える。音楽を愛するからこそ辞めたのだ。両脇を抱えられて指揮台に上がるような姿にはなりたくない。」という言葉が印象に残る。
「もし、再び指揮をするならば何を選ぶ?」の問いに「ヨゼフ・シュトラウスのトンボだ。この曲ほど人々を幸福にする曲はない。空中に静止している時も、羽を小刻みに震わせているトンボの姿を見事に捉えている素晴らしい曲だ」
ずしりと深い重みのある一つ一つの言葉に、音楽への深い愛と自分への厳しさが垣間見える。
このドキュメンタリーのクライマックスは、息子の「指揮をする父の姿を見たい」という言葉に実現した引退後唯一のスウィトナーの指揮。曲はモーツァルトの交響曲第39番とヨゼフ・シュトラウスの「とんぼ」というもの。この時のために集まったベルリン国立歌劇場のメンバーのスウィトナーの姿を見上げる畏敬の眼差し。そして流れる音楽は一点の澱みのない純粋な高み に達したモーツァルト。実に感動的な演奏だ。
今日はそのスウィトナーの指揮したヨゼフ・シュトラウスのポルカ・マズルカ「とんぼ」を聴く。
そしてもう一枚は、番組の中でスウィトナーが満足そうな顔で聴いていたモーツァルトの交響曲第39番。
いずれもドレスデン国立歌劇場管の気品のある弦楽器の音きが美しい。
自分の手元にあるのは徳間音工から出ていた国内盤LP。同じ録音のCDもあるが、LPの方が音が良い。
番組の中で、スウィトナーはドイツ製DUALのレコードプレーヤーで聴いていた。
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