ニキシュの「運命」
曇り、梅雨は未だ明けず九州地方は連続の大雨。
袋小路に入っていた現在のプロジェクトにようやく光明が見えてきた。明確な道筋が見えてきたのであとは前に進むのみ。
今日はベルリンフィルの二代目の常任指揮者、マーラーよりも年上でブラームスやチャイコフスキーと同時代に生きた伝説上の大指揮者アルトゥール・ニキシュ(1855-1922)の演奏を聴く。
70年代はじめに出た日本コロンビアのヒストリカルレコーディングシリーズの一枚。
レコードの解説によると、このLPがニキシュの「運命」の国内初登場盤ということが書いてある。
曲は「ローマの謝肉祭」序曲にリストのハンガリー狂詩曲第1番、そしてベートーヴェンの「運命」。
「運命」は著名な指揮者による「運命」の初録音として有名なもの。
オケはベルリンフィルとなっているがリストはロンドン交響楽団の演奏。
1913年の電気を使わないアコースティック録音。
ニキシュより年上の世代の有名指揮者の録音は存在しない。
文献的な記録としては、ベルリンフィル初代指揮者のハンス・フォン・ビューロー(1830-1894)の「英雄」がライヴ録音されたとの記録はあるが実物は発見されていない。
ニキシュはサイレントフィルムに記録された指揮映像も残されている。
これは演奏会映像ではなく映画用に正面から撮影したもので、腕を単純に上下に動かすだけのものだった。
ニキシュの音なし映像でもうひとつ、これは曖昧な記憶だが、演奏会でオケの最後列の後ろあたりの遠くから正面の指揮姿を撮影したものもあったように思う。
長い指揮棒を持ち、両手を大鷲のように大きく手を広げてゆっくりと指揮していた。
ただこの映像はその後一切お目にかかっていないので、自分の記憶の中で勝手に作り上げてしまったものかもしれない。
さて、ニキシュの運命。録音の古さは覚悟の上の視聴。
編成も限られているし(録音風景の写真あり)、狭い部屋での一回あたりの録音時間の制約もあった環境の中の録音。
日常のニキシュの姿をどれだけ捉えているかという疑問もあり、以前には簡単に聞き流していたが、今、虚心に耳を傾けるとテンポの変化やフレージングは充分聞き取れる。
解釈はスパッと割り切った現代的なもの。トスカニーニが尊敬していただけあって、両者の芸風は似ているようだ。
ただし、あたりを大きく包み込んでいくオーラのようなものは、ニキシュ独特のもののように思う。特に「運命」の第2楽章では、ニキシュの持っていた尋常でない風格のようなものが古い録音から自然と伝わってくる。
オケのメンバーがニキシュに見つめられただけで、普段では考えられないような演奏を成し遂げたという逸話はなんとなくわかる。思わず威儀を正したくなるような演奏だ。
| 固定リンク
「音盤視聴記録」カテゴリの記事
- クリストバル・デ・モラーレスのモテトゥスのことなど(2025.06.22)
- ブレンデルのバッハ(2025.06.18)
- オランダ王立海軍軍楽隊のアルメニアン・ダンス(2025.06.06)
- ジャン・ラングレーのミサ曲のことなど(2025.06.03)
- クラシック・レコードコンサートは絵画と音楽(2025.06.02)
コメント