アーヴィングの「くるみ割り人形」
寒波到来。
昨晩遅くに小雨が降り、朝の富士は裾まで真っ白な新雪に覆われていた。
先日人口減少社会についての講演を聴いた。
講師は静岡県立大学学長の鬼頭宏氏。
日本の人口のピークは2008年の1億2,808万人。
その後減少に転じ、このままのペースで少子化が進行すると、2110年には4286万人まで減少するのだという。
仮に今すぐに少子化問題が解決されたとしても、人口減少が止まり安定人口となるのは2050年。
縄文時代の紀元前2300年頃、日本には約26万人の人が住んでいた。
寒冷化による食糧の枯渇で一時8万人ほどに減少したものの、稲作の普及で弥生期には60万人、その後増え続け平安前期には700万人まで達している。
ところが末法思想の広がる平安中期以降人口は減少に転じ鎌倉期の終わりまで停滞する。
これは気候の寒冷化や自然災害に加え、心理的な影響が大きいのだという。
ちなみに東日本大震災に匹敵する規模だった貞観地震の発生は平安初期の864年。
室町期から戦国期にかけては、築城による土木技術の進歩で農業生産が上がり、人口は再び増加傾向となる。
関ヶ原の合戦の頃は1500万人、江戸後期には3200万人となり、ここで人口の増加はピタリと止まる。
鎖国下の閉鎖された自給自足の社会では、3200万人が国内で養える最大値だったということらしい。
その後明治維新となり、海外からの新たな食糧とエネルギーの調達が実現、明治末期には5000万人に達し人口増加は高度経済成長期まで続く。
今では信じられぬことだが、1974年の人口白書では人口増加への懸念を報じている。
すなわち現在の少子化は、人口増による食糧と資源の不足を解決するために政府主導ではじまったものだという。
(この部分は講演では触れなかった。氏の著書による)
鬼頭氏曰く、これからの社会に必要なことは幸福感。
それもGDPなどの経済的な価値ではない「幸福の新しい価値観」を持つことだ。
という趣旨だった。
今の日本は歴史上何度目かの先の見えない停滞の時代に入り、社会に先行きへの不安感が漂う。
これは長い人口停滞期にあった平安時代に似ているようにも思う。
この時は室町時代の停滞の脱却まで実に400年以上の年月を要している。
悲観的なことを書いてしまいました。
音楽は「くるみ割り人形」についてもうひとつ。
ムラヴィンスキーとロジェストヴェンスキーの「くるみ割り人形」をレコード棚に戻そうとしたら、すぐ隣のロバート・アーヴィング指揮の「くるみ割り人形」が目に入った。
アーヴィングはバレエ音楽のスペシャリストでLP時代はかなりの録音が出ていた。
レパートリーは軽いものにほぼ限定されていたが、曲を厳選していたので駄作といったものがなかった。
代表作としては、CD化もされた振付師バランシンの主要なレパートリーを集めた
ノンサッチから出ていた「バランシン・アルバム」だろう。
他に米キャピトルに残したストラヴィンスキーの「アゴン」や「火の鳥(1911年版)」、ウォルトンの「優雅な貴婦人だち」など非常な名演だった。
冴えたリズムの中に聴かせる格調高い音楽造りで好きな指揮者だ。
この「くるみ割り人形」は主兵のニューヨークシティバレエのオケを振ったもの。
組曲第1番、第2番といった選曲が珍しいが全曲盤からのセレクトのようだ。
組曲第1番は通常演奏される組曲版と全く同じ。 組曲第2番は独自の選曲。
手持ちは米KAPP原盤の国内盤LPでモノラル。
ステレオ録音もあるかもしれない。
軽やかで流れが良く精密なテンポ感と曖昧さのないフレージング。
踊り手はさぞや踊り易かろう。
腕利きのオケを自在にドライヴした爽快な演奏だ。
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