モートン・グールドの「1812年」
昨日と同じような雲の多い晴れ。
気温は高く本日の最高気温34度。
モートン・グールドの指揮するチャイコフスキー、「1812年」を聴く。
聴いたのは伊RCAから出ていたLPで、有名なドラティ盤と同じ「ウェリントンの勝利」とのカップリング。
モートン・グールドはアメリカの作曲家にしてアレンジャー、指揮者。
とにかく大変な才人で、クラシックからポピュラーのヒット作まで幅広いジャンルの作曲や指揮者としての録音がある。
この録音は米マーキュリーが出したドラティの「1812年」に対抗して作成されたアルバム。
オリジナルは「ボレロ」とのカップリングだった。
録音だけではなく演奏も立派。
冒頭のチェロアンサンブルの厚い響きと完璧なバランスで鳴り響く、
弦楽器のみならず管楽器も腕っこきが集まっているようだ。
ブリリアントでゴージャスな音の饗宴。
注目の終盤でも大砲がスピーカーの左右から交互に咆哮。
鐘はスピーカーの中央部から2種類の鐘が鳴っている。
B面のベートーヴェンは演奏としては1812年よりも良いかもしれない。
ただしこちらはマスケット銃の音はラチェットを使用しているようだ。
実はネット情報で、このグールドの「1812年」の最近復刻されたCDでは大砲と鐘が入っていないとのこと。
どうやら収録時に別採りした大砲と鐘の音のマスターテープを紛失してしまったらしい。
そこであらためて米RCAのオリジナルLP(LSC2345)を棚から取り出してみた。
このLPには詳細な録音データが書かれている。
1959年にニューヨークのマンハッタンセンターでの録音。
補助マイクを12本使用。
大砲と鐘については演奏とは別に録音したと確かに書かれている。
大砲にはCarroll Canon、鐘にはSchulmerich carillonと書かれているけれど意味不明。
Schulmerich という鐘のメーカーがあるけれども、メーカーの創立が1962年なのでこの録音の後だ。
解説には演奏と大砲とをシンクロさせるのに苦労したともある。
録音時のオケの編成はヴァイオリン22 ヴィオラ9 チェロ8 コントラバス4。
コントラバスの4人は少ない気がするけれど力のあるチェロがその分補っているようだ。
特に低音部は充実していて冒頭のチェロ合奏は見事な響き。
ともあれ1959年録音としては驚異的な音の良さで演奏も見事。
オケの名はないけれど、おそらく優秀なフリーランスにメトロポリタン歌劇場やニューヨークフィルのメンバーを加えたと想像する。
とにかく相当な腕利き集団だ。
今回イタリア盤と米オリジナルLPを聴き比べて、音のバランスと質が異なることが判った。
オケのリアルさでは米RCAのオリジナルが圧倒的に良く冒頭のチェロアンサンブルはまさに実在の響き。
ステレオ効果を強調したこの時期の録音に特徴的な左右に極端に分かれる音像も面白い。
ただし終盤の大砲と鐘の音は、最新のデジタル録音の同様の演奏に比べると響きがかなり混濁している。
そして一方のイタリア盤。
オケの定位や響きはオリジナルに比べるとかなり甘い。
それでもオリジナル盤を聴かなければ優秀録音として十分通用する。
面白いのは終盤の大砲と鐘の音は、オリジナルLPがかなり混濁していたのに比べこちらは明瞭な音。
大砲の一発一発が明快に識別できる。
別のアナログマスターが存在するのだろうか。
Youtubeはモートン・グールドの「アメリカン・サリュート」
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コメント
BBSへの詳細コメントありがとうございました。
立派な演奏、分厚い響きなのに、CD復刻に大砲鐘がないのは残念、予算もあるのだろうけれど、この辺り現役世代の雑なお仕事は残念でした。
こちらかなり日常の生活が戻ってきました。体調の方はいかがでしょうか。いつも微に入り細を穿つ情報に感服しております。
投稿: 林 侘助。 | 2020年6月25日 (木) 07時36分
大変興味深いです。
>オケの定位や響きはオリジナルに比べるとかなり甘い。
>それでもオリジナル盤を聴かなければ優秀録音として十分通用する。
>面白いのは終盤の大砲と鐘の音は、オリジナルLPがかなり混濁していたのに比べこちらは明>瞭な音。
>大砲の一発一発が明快に識別できる。
ひょっとするとオケ録音のEQカーブと大砲鐘のEQカーブが異なっていて、
米盤はオケのカーブに合わせて、伊盤は大砲鐘のカーブに合わせて
カッティングしたのかもしれません。大変面白いです。
投稿: ぶりちょふ | 2020年6月26日 (金) 07時37分
林さん。
小生、昨年末から50肩が悪化し近所の病院に行ったところ手術を勧められました。
どうも気が進まなかったのでそのまま放置したら春ぐらいから痛みが去りました。
不思議なもんです。
お互いこの年になると体の不調に悩まされますね。
ましてコロナ感染のリスクが加わったので悩ましいところです。
モートン・グールドの一連の録音はオケの編成から察すると、ある種録音のマジックも考えられますが、優秀録音に演奏も良いので楽しめます。
投稿: 山本晴望 | 2020年6月26日 (金) 09時09分
ぶりちょふさん。
今回手持ちの装置でぴったり合うカーヴが見つからなかったので2つともRIAAで聴きました。
なるほど!
確かにオケと大砲のカーヴが異なるとすれば説明がつきます。
面白いです。
投稿: 山本晴望 | 2020年6月26日 (金) 09時16分