寒風吹きすさぶ金曜日。
狩野川河川敷から見る富士山も凍れる姿。
メニューインのブランデンブルク協奏曲を聴いてから、手持ちの音盤をいろいろと聴き直してみたくなった。
トランペットのデニス・クリフトが参加しているサーストン・ダート盤もあったはずと思っていたが、それは自分の思い違い。
手持ちのダート盤は「水上の音楽」全曲だった。
ダートのブランデンブルク協奏曲全曲録音は、「水上の音楽」と同じキングレコードのバロック音楽シリーズの2枚組廉価盤で出ていた。
かつて中古市場で何度か見かけていたので、てっきり購入していたと思い込んでしまった。
CDにもなっておらず今や入手難。
サーストン・ダートは、イギリスの音楽学者で鍵盤奏者、室内オケのフィロムジカ・ロンドンを組織して、モノラル期からステレオ初期にかけてバロック期の録音を残している。
ダートの教えを受けた音楽家はマンロウ、ホグウッド、ガーディナー、マリナーなど、影響を受けた俊英は数多い。
今日はダートが通奏低音で参加しているネヴィル・マリナー盤を聴く。
マリナーの3種ある同曲録音のうち最初のもの。
手持ちはフィリップス原盤の国内盤LP.
・ブランデンブルク協奏曲第1番ヘ長調BWV1046
アラン・ラヴデー (ヴァイオリン)
コリン・ティルニー (チェンバロ)
フィリップ・レッジャー (チェンバロ)
・ブランデンブルク協奏曲第2番ヘ長調BWV1047
デイヴィッド・マンロウ (リコーダー)
ネイル・ブラック (オーボエ)
バリー・タックウェル (ホルン)
アイオナ・ブラウン (ヴァイオリン)
サーストン・ダート (チェンバロ)
レイモンド・レッパード (チェンバロ)
・ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調BWV1048
サーストン・ダート (チェンバロ)
・ブランデンブルク協奏曲第4番ト長調BWV1049
ジョン・ターナー (リコーダー)
デイヴィッド・マンロウ (リコーダー)
アラン・ラヴデー (ヴァイオリン)
サーストン・ダート (チェンバロ)
レイモンド・レッパード (チェンバロ)
・ブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調BWV1050
クロード・モントゥー (フルート)
アイオナ・ブラウン (ヴァイオリン)
ジョージ・マルコム (チェンバロ)
・ブランデンブルク協奏曲第6番変ロ長調BWV1051
以上
ネヴィル・マリナー (指揮)
アカデミー室内管弦楽団
この録音は通常演奏されているブランデンブルク候への献呈稿以前のケーテン時代の版にダートによる仮説を含めた校訂が行なわれたもの。
このLPの初出時には、世界初のブランデンブルク協奏曲の第一稿の録音とされていたが、実際には50年代半ばにマックス・ゴーバーマンが一部の曲で試みている。
聞き慣れたブランデンブルク協奏曲とは細部でかなり異なる。
第1番では楽章の異動があり 第3楽章アレグロはなく第4楽章のあとに付録と言う形で第3楽章が来る。
メヌエットもトリオのポラッカが細部で異なる。
第2番はトランペットではなくホルンで演奏されている。
しかもコルノ・ダ・カッチャではなく通常のホルン。
ソロは名手バリー・タックウェルだが完全にホルンコンチェルトと化している。
正直なところこの曲はトランペットソロで聴きたい。
第3番第2楽章はヴァイオリンと通奏低音のためにト長調のソナタBWV1021を使用。
ここでのヴァイオリンのアイオナ・ブラウンとダートのチェンバロの物悲しいデュオが心を打つ。
第4番は通常よりも1オクターヴ高いソプラニーノリコーダーを使用。
本来はフラジョネットという楽器のために書かれたがソプラニーノリコーダーではチープな響きだ。
第5番の長大なチェンバロソロはかなり短め。
ダートはこの録音中に病に倒れ、収録直後の3月6日に49歳の若さで他界することに。
したがってダートが参加しているのは第2番、第3番、第4番の一部のみ。
残りはレイモンド・レッパードとコリン・ジェルニー、フィリップ・レジャー、ジョージ・マルコムが替わってチェンバロを弾いている。
通常ならば取り直しをするところだが、不完全ながらダートの演奏を残したのはこの全曲録音に当たってダートの存在があまりにも大きかったからだろう。
この日本盤全曲LPにはネヴィル・マリナーのダートへの追悼文が掲載されている。
そこにはダートの全面的な協力の下に史上初のオリジナル版によるブランデンブルク協奏曲の録音に望みながら、志半ばで倒れたダートへのマリナーの大きな悲嘆が赤裸々に書かれている。
なお日本語解説は大御所吉田秀和氏。
演奏全体としては名人を集めた割には散漫な印象だ。
やはりキーパーソンのダートが抜けた穴は大きい。
Youtubeはマリナー指揮の「魔笛」序曲
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